トップページ > 心理学コラム > 見落とされてきたトラウマ

心理学コラム

見落とされてきたトラウマ

私のカウンセリングの主要な目的の一つはトラウマの消去です。その人の今の生活に悪影響を与えている過去の心の傷を特定し、FAPという技法によって消去していくのです。認知行動療法のように過去のトラウマにフォーカスを当てないという立場もありますが、甚大な心のダメージをもったまま日常生活を続けるのは、重い足かせをつけられたまま走れといわているようなものです。確かに、そもそも過去というものは物理的には存在しません。物理的に存在するのは今この瞬間だけなのですが、過去のトラウマは今のクライアントの脳の興奮や内臓機能の混乱というかたちで残存しているのです。つまり、過去のトラウマは、今現在の肉体に封じ込められているのです。ですから、トラウマを癒すということは、必要以上に過去にこだわるということではなく、今を癒すことにほかならないのです。
トラウマといっても何種類かに分けられます。そのあたりのことは、本ホームページに掲載してある「スターピープル」の記事をご覧頂ければと思いますが、今回は従来のトラウマ治療において見落とされていた「想像上のトラウマ」というものについて説明致します。
それは、他者の心の中の想像上のイメージが、そのまま当人の心に伝わってきてしまい、ダメージになるというものです。例えば、年頃になった娘に対して、その父親が心の中で娘をレイプする場面を想像しただけで、その邪なイメージが娘の心の中に入ってしまい、トラウマとして残ってしまうというものなのです。現実的には何も起きていないわけですから、そんなことだけでトラウマになるのかと思うかもしれませんが、私が日々の臨床の場面で接するクライエントの中で、そのようなトラウマ問題が表面化することがあるのです。特にフィーリングの鋭い女性にかなり多いのです。当人は、何か分からないけど、得体の知れない恐怖感を感じるだとか、何かに追われているような感じがするというようなことを言います。あくまで父親或いは祖父などの他者の心の中での想念であり、現実的には何も起きていないわけですから、当人にもその原因が分からないわけです。しかもそのような場合、その父親や祖父は表面上は結構厳格な人物という場合が多いのです。原因が分かれば対応策も考えられるのですが、原因がどうしても分からないままに月日が過ぎていくことは、その人の自律神経に多大な混乱を与えるものです。感情を抑えられずに、周囲の人に当り散らしたり、リストカットをしたりする人の心を探っていくと想像上のトラウマ、つまりレイプのイメージというものが出てくることが多いのです。そのような症状が長期間続くことでより心身のダメージはさらに増していくものです。他者のイメージを無意識レベルで受け取ってしまったために一生を棒に振るというようなことも起こりうるのです。

 

  • スターピープル48号掲載記事
  • 川崎麻世さんとの対談
  • チベット紀行
  • FAPについての論文・学会発表