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心理学コラム

アルコホリックのためのAAグループとは

アメリカの遺産・AAの自助グループ

イスラエル軍によるガザ地区の攻撃、泥沼化したシリアの内戦、ISISのイラク侵攻、ロシアとウクライナの対立など世界各地で戦乱は絶えない昨今ですが、その背景にはアメリカがかつての力を失ってしまったということがあるようです。
かつて20世紀はアメリカが物質文明を謳歌した時代でした。自動車産業、テレビなどの家電製品、ファーストフードによる大量消費文化、アポロ飛行船の月面着陸、ハリウッドのスペクタル映画など…アメリカが資本主義社会を華々しくリードし、その文化は戦後のわが国にも多大な影響を及ぼすことになりました。

しかしながら、21世紀に入り、9.11以降のテロとの戦い、中国を中心した新興国の台頭、サブプライムローンに発する金融危機などによりソ連崩壊後から続いていた世界の一局集中支配は限界を迎え、アメリカの超大国としての威信が揺らぎつつあるのです。
そのような現況の中で20世紀のアメリカが後世に残した最大の遺産は、結局のところAAから始まった自助グループではなかったのかという話があります。

20世紀初頭にアメリカは資本主義社会のリーダーとなりつつありましたが、1929年にアメリカ発の世界恐慌が起き、アメリカの都市には失業者が溢れ、アルコール依存症が蔓延したといいます。そのような時代背景の中、ビル(ウィリアム・ウィルソン)はニューヨークのウォール街で金融業を営んでいましたが、やはり深刻なアルコール依存症に陥っていました。

しかしある時、ビルは一人の友人からオックスフォードグループ運動というキリスト教会の霊性復興運動の話を聞いたことがきっかけとなり、超自然的な癒しを体験し、アルコール依存症から解放されるのです。そして、1935年にアルコール依存症からの回復のための自助グループであるAA(アルコホーリクス・アノニマス/匿名のアルコール依存症者)を同志とともに発足させるのです。
AAではビルがインスピレーションを受けて作り出した12ステップのプログラムというものに即してミーティングをもちます。その12ステップのプログラムの中には「大いなる力」「ハイヤーパワー」「自分が理解した神」という表現があります。そのようなフレーズは、キリスト教の思想を土台にしつつも、他の宗教の信者や無神論者でも受け入れられるように配慮された表現なのです。
そして、あっという間にAAの自助グループは宗教・民族・言語の枠を超えて世界中に広まることになったのです。そしてさらに、薬物依存やギャンブル依存、過食症といった様々な依存症にもAAの12ステップ方式の自助グループが応用されていきました。依存症からの回復のためには、医学的な治療よりもキリスト教的な背景の中から生まれた自助グループの方が有効であることが経験的に分かっているのです。

心の病の診断マニュアルDSM-5について

心の病の診断マニュアルDSM-5について

アメリカ精神医学会が作成したDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSMの第5版)の日本語訳が\発刊されました。DSM-5とは精神科医やカウンセラーが心の病の診断名を決めるためのマニュアルブックです。DSM-Ⅰが1952年に刊行され、その後改訂が繰り返されており、2000年のDSM-4TR(改訂版)から13年ぶりにDSM-5が作られたのです。しかし、前回のDSM-4と比べて今回のDSM-5は、アスペルガー障害という言葉が無くなったことだとか、多少の細かい変更があったものの全体としてそれほど大きな変革はなされていないという感じです。

そもそも心の問題はその根本的な生物学的な原因がほとんどまったく分かっておらず、今回のDSM-5もやはり表面に表れている主観的な症状だけで心の病のカテゴリーを区分しているだけのものです。
医学が飛躍的に発達したといわれていても身体的な病気についてまだ分からないことが多いわけですが、それ以上に心の問題は分からないことばかりで、現代の精神医学だとか心理学だとかいうものは未だ原初的な段階にあると言わざるを得ません。
さらにまた、DSMの編纂のための社会的背景にも疑問が残ります。アメリカではオバマケアが未だ実施されず、日本の国民皆保険のようなものがありません。高齢者や貧困層以外には公的な保険金の支払い制度がないために、民間の保険会社の保険に加入するわけですが、その保険金の支払の基準になるものがDSMなのです。そのためにDSMの編纂には保険会社の思惑がからむものだとされ、また、製薬会社が向精神薬を売りさばくために都合のいいように診断名が作られているのではないかというような批判があるのです。
DSM-5の解説本である「精神疾患診断のためのエッセンス DSM-5の上手な使い方」の中でDSM-4に比べて精神疾患の診断基準が引き下げられてしまったことから、その著者であるアレン・フランセスは「DSM-5はさらなる過剰診断と過度な薬の使用に門戸を開け放ってしまったのである」と嘆いているのです。

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