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心理学コラム

シャーロック・ホームズ

この春はNHKでホームズものが三本放映されていました。イギリスで制作されジェレミー・ブレットが主演し、原作に最も近いとされる「シャーロック・ホームズの冒険」、21世紀のロンドンを舞台としベネディクト・カンバーバッチ主演でハイセンスな映像美の現代版「シャーロック」、そして、三谷幸喜脚本の人形劇で学園ドラマとしての「シャーロックホームズ」です。
100年ほど前にコナン・ドイルによって書かれた名探偵シャーロック・ホームズ・シリーズの熱狂的なファンはシャーロキアンとも呼ばれ、彼らによってホームズはあたかも実在した人物であるかのように学問的な研究の対象にさえなっているのです。ホームズの魅力はどこにあるのでしょうか。
以前私は恩師である精神科医の斎藤学から「セラピーは推理小説のようなもの」であり、「シャーロック・ホームズの冒険」のDVDは是非観るようにと勧められたことがありました。推理小説では事件が起きてすぐに容疑者らしき人物が特定されるのですが、実はその人は無罪であり、最終的には意外な人物が真犯人であるといったケースがよくあります。心の問題も表面に表れている症状の背後には、本人も気が付いていない思いがけないようなトラウマが隠れていることが多いものであり、推理小説的だということなのです。
ドイルの原作でも、ブレットの「シャーロック・ホームズの冒険」においても、ホームズはコカインの常用者です。はまり役といわれるブレット自身も撮影時に躁鬱を患っていたようで顔色が蒼白く病的な印象を受けますが、そのあたりが原作のホームズのイメージに合致しているように思えます。また、ホームズの周りには大家さんのハドソンおばさん以外は女っ気がありません。いつもワトソンといっしょです。この二人は一体どういう関係なのでしょうか。
突き詰めていくと、原作者コナン・ドイルの病理がホームズに反映しているという見方もできます。研究者の小林司と東山あかねは、ドイルのホームズ物語は、「推理小説のかたちをとっているが、彼の父のアルコール症と母親の長期にわたる不倫、彼自身の妻との不仲に悩む迷いと逡巡の文学的なかたちでの心情吐露だった」という研究を発表しています
ホームズの宿敵であるモリアティ教授は、ドイルの母親であるメアリのスペルをもじって作り出した人物だといわれます。ドイルの家系的な病理が垣間見えてくるわけです。
コナン・ドイルの原作小説を読み、感銘を受けた、作家兼映画監督のニコラス・メイヤーの二次創作小説である「シャーロック・ホームズの華麗なる挑戦」では、ワトソンがホームズの心の病を案じて、精神分析学者のジグムント・フロイトのところに治療に行かせるというストーリーになっています。
ホームズを通して、心の問題についての推理が様々なかたちで広がっていくのです。現代版「シャーロック」さらに人形劇「シャーロックホームズ」の次回作に期待しています。

心のレンズのクリーニング

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